ヤマハ音楽教室「ぷらいまりー」が始まって1ヶ月、4歳のお子さまが「できないもん!」「間違えるからやだ!」と練習を断固拒否し、号泣してしまうとのこと。今まで週1・2回程度夜に練習していましたが、先生のアドバイスで朝晩の練習を試みるも、お子さまの抵抗は強く、親御さんも心を痛めていらっいます。やめるかと言う問いに「やめない!」という言葉に救われる思いと、どうすればこの状況を乗り越えられるのかというお悩みが伝わってきます。「間違えることへの極端な抵抗」を「頑張ってできるようになった」という成功体験に変え、心の成長に繋げたいという親御さんの願いは本当に素晴らしいです。それだけにこのまま続けていいものかと言う葛藤が出てきますよね。
4歳のお子さまの頑なな気持ちの背景にある心理を理解し、練習への抵抗感を和らげ、音楽を再び楽しむための関わり方を私なりに考えてみました。
「間違えるのがイヤ!」の叫びの裏にある、4歳児の繊細な心
まず、なぜお子さまがそこまで「間違えること」を嫌がるのか、4歳という年齢の発達特性を踏まえながら考えてみましょう。
- 「できる自分」でいたい!完璧主義の芽生え: 4歳頃になると自我がはっきりし、「自分でやりたい」「うまくやりたい」という気持ちが強くなります。特に、新しいことを始めたばかりの時期は、「できるはず」という理想と、思い通りにいかない現実とのギャップに強く葛藤します。「間違える自分」を許せない、という完璧主義的な一面が出てくることもあります。
- 失敗は「ダメなこと」?純粋な感受性: 大人が思う以上に、子どもは「間違い=悪いこと、恥ずかしいこと」と捉えてしまうことがあります。特に、周りの反応に敏感な時期でもあり、誰かに何かを言われたわけではなくても、自分でそう感じ取ってしまうことがあります。
- 言葉にならない「難しい」「悔しい」気持ち: 「イヤ!」という言葉は、4歳のお子さまにとって「難しい」「悔しい」「不安だ」「どうしていいかわからない」といった、まだうまく言葉にできない様々な感情の代弁である可能性があります。
- 「コントロールしたい」欲求: 自分の思い通りに指が動かない、音が出ないという状況は、自分で物事をコントロールしたいという欲求が強いこの時期のお子さまにとって、大きなストレスになります。
- 「やめない!」は本心: それでも「やめない!」と言うのは、心のどこかで音楽が好き、ヤマハが楽しいという気持ちが残っている証拠です。その小さな灯火を消さないようにすることが大切です。
親御さんの「間違えてもいいんだよ」が届きにくいのはなぜ?
「間違えていいんだよ」「みんなそうやって上手になるんだよ」という親御さんの言葉にお子さまは『わたしがいやなの!パパはよくてもわたしがまちがえたくないのおおおおおお』と号泣するご様子。そうですよね。パパとママがいくらいいんだよ、って言っても自分が納得できないってことありますよね。でも「間違えないと上手になんてなれないのよ」と言うのは、論理的には正しくても、感情が高ぶっているお子さまにはなかなか届きにくいものです。
- 感情が理性を上回る: 特に幼いお子さまは、強い感情に支配されると、理屈では納得できなくなります。「自分がイヤなものはイヤ」というストレートな感情が優先されます。
- 本人の「納得感」が最優先: 親が「いい」と言っても、本人が「自分は間違えたくない」と思っている以上、その価値観を尊重する必要があります。その上で、少しずつ「間違っても大丈夫かも」と思える経験をさせてあげることが重要です 。
今こそ「練習」のハードルを極限まで下げてみよう!
今の状況で「練習しなさい」というアプローチは、お子さまの抵抗感をさらに強めてしまう可能性があります。先生のアドバイスも大切ですが、お子さまの状態に合わせて、今は一度「練習」という概念を手放し、音楽に楽しく触れることを最優先にしてみましょう。
- 「練習」という言葉を封印!「ピアノと遊ぼう!」へ転換
- 「練習しよう」ではなく、「ピアノでちょっと遊んでみない?」「この音、どんな音がするかな?」など、誘い言葉を変えてみましょう。
- 目標は「弾けるようになること」ではなく、「ピアノに触れること」「音を出すこと」そのものにします。まだ1ヶ月と初期の段階ですから練習しなくともレッスンには支障がないと思います。
- 楽器に触れること自体を「楽しい体験」に
- ピアノの蓋を開けて、お子さまの好きな音をポーンと一つだけ出してみる。「きれいな音だね!」「面白い音だね!」
- 知っている童謡などのメロディを、指一本でゆっくり探り弾きする「音探しゲーム」のように。間違えても「あ、こっちの音だったかな?」とゲーム感覚で。
- 鍵盤をそっと撫でてみる、黒鍵と白鍵を数えてみるなど、楽器そのものへの興味を引き出す関わりも良いでしょう。
- 今は「5分練習」のプレッシャーも一旦お休みしましょう。 お子さまがピアノの前に座れただけで、音を一つ出せただけで「すごい!」と認めましょう。
- 「弾く」以外の音楽活動を積極的に取り入れる
- ヤマハの教材のCDやDVDを一緒に見て、歌ったり、リズムに合わせて手遊びをしたり、踊ったりする。
- 音楽がテーマの絵本を読んだり、親子で好きな歌をたくさん歌ったりする。
- おもちゃの太鼓や鈴など、簡単に音が出せる楽器で自由に遊ぶ。
- 大切なのは、音楽=楽しいものという原体験をたくさん積むことです。
- 親御さんが楽しむ姿を見せる
- お子さまに無理強いせず、親御さんが楽しそうにピアノを弾いたり、歌を歌ったりする姿を見せる。「ママ(パパ)、この曲好きなんだよね」と楽しそうにしていると、お子様も自然と興味を持つことがあります。
「間違えても大丈夫」を“体感”させる声かけと関わり方
言葉で「大丈夫」と伝えるだけでなく、お子さまが心から「間違えても平気なんだ」と感じられるような体験を積み重ねることが大切です。
- 親御さんが「間違うモデル」を見せる
- 親御さんがわざとピアノを弾いてみて、「あ!ママ(パパ)間違えちゃった!てへっ。でも大丈夫、もう一回やってみようっと!」と明るく、おどけて見せましょう。間違いが深刻なことではないと伝わります。
- 「ママ(パパ)もね、ピアノ始めたばっかりの時は全然弾けなくて、いーっぱい間違えたんだよ。でも、だんだんできるようになったんだ」と、ご自身の体験談をユーモラスに語るのも効果的です。
- 「間違い=楽しい発見」に変えるゲーム
- 「ママ(パパ)がこの曲弾くから、もし間違ってるところがあったら教えてね!間違い探し名人さん、お願い!」と、お子さまに間違いを指摘する役割を与えてみましょう。間違いが「怖いもの」ではなく「見つけると面白いもの」に変わるかもしれません。
- 「できた!」の基準を思いっきり下げる
- 1音出せたら100点満点!:「わぁ!ピアノの音が出たね!〇〇ちゃんの音、とっても素敵!」
- 鍵盤に触れただけでもOK!:「ピアノさんとこんにちはできたね!ピアノさんも喜んでるよ!」
- 泣かずにピアノの前に座れただけでハナマル!:「イヤイヤな気持ちなのに、ピアノの椅子に座れたんだね。それだけですごいことだよ!」
- 大げさに褒めるのは良いことですが、その「褒めポイント」を徹底的に細分化し、どんな小さなアクションも見逃さずにキャッチしましょう。
- 結果ではなく「気持ち」や「取り組む姿勢」を褒める
- 「ピアノの前に座るの、イヤだったのに、ちょっとだけ頑張ろうとしたんだね。その気持ちがすごいよ!」
- 「泣きながらも『やめない!』って言えるなんて、本当にヤマハが好きなんだね。その気持ち、パパもママも嬉しいな」
- 「今日はピアノの音を聴くだけにしてみようか。聴いてくれてありがとう」
「成功体験」への小さな小さなステップ:焦りは禁物
親御さんの「成功体験を積ませたい」という願いは素晴らしいですが、今は焦らず、本当に小さなステップから始めましょう。
- 課題を米粒サイズまで分解する
- ぷらいまりーの楽曲も、4歳のお子さまにとっては複雑で長いものです。まずは1曲の中の「最初の1音だけ」「このリズムだけ手で叩いてみる」「この歌詞だけ歌ってみる」など、ごくごく一部分に絞り込みます。
- 「指一本」から、遊び感覚で
- 両手で弾く、正しい指で弾く、というハードルは一旦脇に置き、お子さまの好きな指一本で、知っているメロディをなぞるように弾いてみることから始めてみましょう。
- ヤマハの先生との連携を強化する
- ご家庭での状況(練習への強い抵抗、間違えることへの恐怖心など)を正直に先生に伝え、「今は家での練習のプレッシャーを減らし、音楽を楽しむことを優先したい」と相談してみましょう。
- レッスン中に、先生から「間違えても大丈夫だよ」「みんな最初は難しいから、ゆっくりでいいんだよ」といった声かけを特に意識して行ってもらうようお願いするのも良いかもしれません。
- 家庭でできる「音楽を楽しむための具体的な遊び」のアイデアを先生に聞いてみるのも良いでしょう。
- 「今はやらない」という選択も勇気ある一手
- あまりにも拒否が強い場合は、無理強いせず、数日間~1週間程度、ピアノや練習に関する話題を一切出さず、完全に距離を置く期間を設けるのも有効な場合があります。その間は、意識的に楽しい音楽を聴かせたり、一緒に歌ったりする「ポジティブなインプット」に徹しましょう。気分転換が大きな効果を生むこともあります。
親御さんの心の持ちよう:肩の力を抜いて、長期戦で
- 「辞めさせたくない」「心の成長を」という親御さんの願いは、お子さまへの深い愛情の証です。しかし、今は少しだけ肩の力を抜き、「すぐにできなくても大丈夫」「いつかきっと」という気持ちで、長い目で見守りましょう。
- お子さまの「イヤ!」という強い感情を否定せず、「そうか、そんなにイヤなんだね」と、まずは共感し、受け止めることを最優先にしてください。
- 4歳のお子さまの成長は、大人が思うよりもゆっくりですが、着実に進んでいます。焦らず、お子さまのペースを尊重しましょう。
- 何よりも、親御さん自身が音楽を楽しみ、その楽しさをお子さまに伝えていくことが大切です。
おわりに:音楽の楽しさを取り戻し、「できた!」の笑顔へ
ぷらいまりー開始1ヶ月での大きな壁。しかし、お子さまの「やめない!」という言葉は、音楽への興味や可能性がまだ残っている証です。今は「練習して上達する」ことよりも、「音楽って楽しいな」「ピアノに触れるのって面白いな」という気持ちを取り戻すための種まきの時期と捉え、焦らずじっくりと関わっていくことが大切です。
お子さまが安心して「間違えること」を受け入れ、小さな「できた!」を積み重ねていけるよう、親御さんが最高の応援団長になってあげてください。今日の涙が、いつかきっと「頑張ってよかった!」という輝く笑顔に変わる日が来ることを信じています。